歴史

やさしい哲学。中世ヨーロッパ編|今日からあなたも哲学者

 

中世といえば・・・キリスト教。

中世を象徴する事件といえば、国の王(皇帝)とキリスト教のトップ(教皇)の権力争いがあります。

 

キリスト教を破門されてしまった皇帝が、後日教皇のいる城門の前で雪の降るなか3日間食事なしで赦しを乞う『カノッサの屈辱』(1077年)

その後フランス国王によって今度は教皇が捕われてしまい、この屈辱のあまり教皇が憤死してしまう『アナーニ事件』(1303年)

 

Amie
Amie
こんにちは、Amieです(@Amie_Writes)

中世ヨーロッパはそれほどキリスト教の影響力が大きく、哲学においても古代や近代とは異なった特徴があります。

 

今回は中世の哲学の紹介に加えて、中世ヨーロッパとは一体どんな時代だったのか?

まずは、ほんの少し時代背景を紹介していきたいと思います。

中世ヨーロッパ時代の特徴

中世とは西ローマ帝国が衰退した400年頃から、ルネサンス期が開花する1400年頃までのおよそ1000年の期間を指します。

 

キリスト教の制圧によって科学の発展の遅れ、荘園制度によって閉ざされた世界での生活、思想においてもキリスト教を信仰している人たちの世界の中で成り立っていました。

荘園制度とは

諸侯、騎士の所有地。

農民に一部領地を保有(レンタル)させ、農作物の収穫が行われていました。

 

中世ヨーロッパの荘園 引用:thinglink

写真右下が領主の家、左上が教会。

 

農民は領主に地代のほか、結婚税死亡税、教会への十分の一税などさまざまな税を支払わなければなりませんでした。

外部と接触することがない閉ざされた世界の中で、唯一の情報発信者は教会。

民衆はキリスト教を疑うことなく信じていました。

 

他国の文明開花に比べ中世は「暗黒時代」などと称されることもありますが、今でも私たちに影響を与えているものがあります。

  • ボランティアの語源
  • 大学のはじまり
  • ゴシック建築様式

ボランティアの語源

11世紀頃、イスラーム勢力の支配下にあったエルサレム(キリスト教の聖地)を取り戻すためローマ教皇はキリスト教徒に向けて「我々の聖地を奪還しよう」と呼びかけ、十字軍を結成します。

十字軍の第一回遠征 引用:Ancient Origins

 

十字軍は「神の意思(voluntas) に従うひと」ボランティア(volunteer)を意味しています

今でもvolunteerは「志願兵」という意味で使用されていますね。

ちなみに十字軍の遠征費・武器・食料はすべて自費。

Amie
Amie
ボランティアで命をかけて戦いにいくなんて・・・と思うかもしれませんが、当時の感覚ではお金(仕事)のために死ぬことのほうが不合理。

イエス・キリストのように命を賭けて行動することが、神に習う方法であると信じられていたんだね。 

 

さらにローマ皇帝は十字軍を徴収するために、参加者に免償(罪の償いを免除すること)を与えることにしました。これにより騎士たちだけではなく民衆も奮起します。

免償は贖宥(しょくゆう)ともいわれます。

もっとあとの話ですが、教皇が免償符をお金で買えるようにしたことで、ルターが批判し近代の宗教改革の流れへ繋がります。

大学(University)のはじまり

十字軍は何回も遠征しますが、成功したのは1回目のみでした。

回数を重ねるごとに本来の目的であった聖地回復ではなくなり、資金確保のために同盟のキリスト教の領土を占領してしまいます。

教皇の信頼はガタ落ちし、あのアナーニ事件へと発展します。

 

とはいえ、この十字軍の遠征によってイスラム圏の文化との交流が盛んになり、医学やイスラムに長い間保管されていたアリストテレスなどの古代ギリシャの学問がヨーロッパに流入され翻訳・研究が行われるようになりました。

 

この頃に教会や国王の制圧を受けず、自由に学問を学ぶために学生がつくった組合(ギルト)が誕生します。

11世紀およそ1088年頃、ヨーロッパ最古と言われるボローニャ大学は学生組合(universitas)によって結成され、これが「大学」の始まりと言われています。

大学は知的文化を求めた学生たちによって自然発生し、はじめは学生たちが教師にお給料を払っていました。

中世の大学 image:Bing

12世紀1200年頃にはパリ大学が成立します。

学生が運営していたボローニャ大学と違って、パリ大学では教師組合(collegium)が中心となって運営されます。

教師も学生も聖職者なので神学研究が盛んに行われていました。

ビリー
ビリー
university や collegeは「組合」が由来なんだね。

建築|ロマネスクからゴシックへ

11〜12世紀までに建てられたロマネスク様式の修道院や教会の特徴は

  • 厚い石壁
  • 小さな窓
  • 半円アーチ
  • 太い柱

といった特徴があげられます。

フランスのサント=マドレーヌ大聖堂 image:Bing

 

田舎に建てられていることが多く、修道士が規則正しく禁欲的な生活をしていました。

Amie
Amie
観光で有名な教会に比べると少し地味だけど、重厚感があるね

 

12世紀後半になると、より洗練されたゴシック様式へと移り変わります。

  • 円形状の天井
  • 尖塔アーチ
  • ステンドグラス

初期ゴシック建築の最高傑作といわれるパリのノートルダム大聖堂 image:Bing

 

ゴシック様式は、より高く、窓が大きく光が取り入れられる設計になっています。

また大都市に建てらているのも特徴です。

image:Bing

文字が読めず、聖書が読めない民衆はマリア像やキリストが描かれたスタンドガラスを見てさぞ息を呑んだことでしょう。

中世の哲学

ではでは哲学のお話です。

哲学は神学の婢(はしため)

哲学は神学の婢・・・いきなりどういうことでしょうか。

これはあとで紹介するトマス・アクィナスによる「学問のトップは哲学ではなく神学だ」という思想です。

神学とは

theologia:ギリシア語のテオス(神)とロゴス(論理・学問)

 

「神の学問」ということになりますが「神とはなにか」に答えるものではなく

「信仰をもって生きる世界とはなにか」を問う学問になります。

 

科学が進んだ現代なら世界の原理は原子・素粒子となりますが、神学をベースにすると世界の原理は「神」となります。

中世は神学が中心となって様々な理論が登場します。

Amie
Amie
「神」が世界の中心であることを念頭におかないと、中世の思想を理解するのは難しいんだね。

神は存在するのか?

十字軍遠征により古代ギリシャの哲学がヨーロッパに流入したのは大学創立でお話しました。

このとき大量のアレストテレスの学問書も翻訳されたのですが、この内容がキリスト教の思想とすごく相性が悪かったのです。

 

なぜなら当時はプラトン哲学が主流で、神=イデアとして見られていました。

プラトン、アリストテレスの思想はこちら

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学者や若者たちによるアリストテレスの理論学の研究が進むにつれ、神学者たちはおとぎ話的な教えではなく論証的に神の存在を証明しなければならない事態になります。

今回は、中世の哲学者/神学者が「存在」をどのように思考したのか紹介します。

アンセルムス|中世神学の父

Anselmus 1033年~1109年

プラトン主義とアレストテレスの論理学を融合させて神の存在証明を行なったのがアンセルムスです。

どのような証明をしたかというと、

  1. 神はそれ以上大きなものがない存在である。
  2. 何かが人間の理解の内にあるだけではなく、現実にも存在するなら、そちらの方がより大きいと言える。
  3. もしも存在が人間の理解の内にあるだけで、実際に存在しないのであれば、それは「それ以上大きなものがない」ということに矛盾が生じる。
  4. よって神は人間の理解の内にあるだけではなく、実際に存在する。

 

ビリー
ビリー
・・・?
  1. 神はもっとも大きい。(これは一般常識として捉える)
  2. 私たちの心にあるその理解と、心の外(現実)にも実在してるなら、後者の方が大きい。
  3. もし心の外になかったら、そもそも①の神がもっとも大きいとは言えなくなってしまう。
  4. よって神は私たちの心の中だけでなく、現実にも実在している。

 

難しいですね・・・

ここではアンセルムスが、アリストテレスの学問が流入するよりも前に信仰と理性で神の存在証明を行ったことに注目したいです。

それが中世神学(スコラ哲学)の父と言われた所以で、およそ200年後に登場するトマスに影響を与えるのです。

トマス・アクィナス|アリストテレス哲学とキリスト教信仰の調和

Thomas Aquinas 1224-1274

トマス・アクィナスはアリストテレスの論理学を用いて「運動変化」「始動因」「偶然性」「完全性の段階」「目的論」の5つの方法で神の存在を証明をしました。

 

1番分かりやすい「運動変化」の証明をみてみましょう。

  • 世界には運動変化がある。
  • 運動変化は、他のものの力によって動かされている。
  • そしてその運動の原因となるものも、他のものによって動かされている。
  • このように運動変化の原因をさかのぼっていけば、最終的には最初に動かしたものがなければならない。
  • 最初に動かしたものとは、人びとが神だと認識しているものである。

落ち葉が舞うのは風の影響、風が吹くのは気圧の影響、気圧は地球の自転で・・・

というように、運動の原因を辿っていくと最終的に行き着くのは神だという認識です。

 

さらにトマスは哲学は理性の範囲で分かるものを扱い、神学は理性を超えるものを扱っているという二重真理説を解きます。

哲学は神学の範囲に到達することができないから「哲学は神学の婢である」と言ったのです。

ウィリアム・オブ・オッカム|近代科学へと導く

William of Ockham 1287-1347

中世の終わり頃に登場したウィリアム・オブ・オッカムは、現代でいうミニマリスト。

 

「必要なしに多くの存在を成立させてはならない」とし、プラトンのイデア論、アリストテレスの形相因を批判します。

この2つは、例えば人が何かをみたとき別の存在(イデア/形相因)があるからそれを認識できるという考えがあります。

オッカムはそれに対し

「そんなんじゃなくて、人は経験で得たもので認識しているんだよ」

という経験主義を説きます。

 

哲学とキリスト教を融合させた思考もオッカムにすれば無駄なもので、これまでの仲介的な事柄や思想をバサバサの削ぎ落としたことから「オッカムの剃刀」と呼ばれます。

 

オッカムは哲学と神学は別物であるというトマスの二重真理説に肯定的であり、次第に哲学は経験主義による研究に進み、神学は信仰のみという現代の方向へと流れていくのでした。

おすすめ中世哲学入門書

キリスト教や神学をもっと詳しく知れるおすすめの2冊を紹介します。

 

この一冊で「キリスト教」がわかる!―誕生・発展の歴史から世界に与えた影響まで/白取晴彦

引用:Amazon

キリスト教に対して抱く素朴な疑問

  • 何を信じることがキリスト教なのか?
  • カトリックとプロテスタントの違い
  • 「洗礼」にはどんな意味があるのか?
  • 修道院の生活はどうなっていた?

こういったことをとっても分かりやすく解説してくれます。

それだけでなく、十字軍のことや宗教改革、イスラム教国との衝突についてなど幅広く紹介されているのでキリスト教の歴史を網羅することができます。

 

個人的に感銘を受けたのは第2章内の

「新しい宗教はなぜユダヤ教・ギリシア哲学を超えて拡大した?」

キリスト以前の考え方、キリストが何を人に与え、なぜ人は信仰するのかとても興味深かったです。

 

神を哲学した中世―ヨーロッパ精神の源流―/八木雄三

哲学を学ぶとき中世の神学は避けられがち(古代学んだら近代が一般的)なのですが、著者の八木さんはヨーロッパの精神が作られたのは中世であって中世を知らずに本当のヨーロッパを知ることはできないと言います。

 

私が哲学に興味をもったのは、イギリスに住んでから抱くようになった「ヨーロッパ精神の原点ってなんだろう?」ということだったので、迷わずこの本を手に取りました。

哲学の話は何度も読み返さないと理解できない難しさがありますが、

寄付の思想が生まれた背景、お金の貸借・利子など、現代に通じることが中世で議論されていたことなど、違った角度から中世ヨーロッパの背景が紹介されています。

中世をディープに覗くことができる、とても面白い本なのでおすすめです。

やさしい哲学。中世ヨーロッパ編|まとめ

中世しかもキリスト教ということで、苦手意識がある方も多いと思います(私もそうでした…)

 

でも信仰があるからこそ、その信仰を検証する試みは読んでいてとてもハラハラします。

はじめは迫害を受けていたキリスト教が信者を着実に増やしていき、その後国教になって国王よりもパワーを得ていく歩みもとても興味深く、ヨーロッパをまた別の視点で見るいい機会になりました。

 

この時代を「難しいし理解できないから」とスルーしてしまうのは非常にもったいないのではないでしょうか。私ももう少し深堀りしてみたくなりました。

 

最後まで読んでいただきありがとうございます!

 

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